「そもそも、ホームランバッターはいい選手を育成できない。トニー・ラルーサ監督と親しいから打撃コーチになっただけだ」
メジャー通算で284勝226敗7セーブ、防御率3.34という数字を残して殿堂入りを果たしているファーガソン・ジェンキンスが、今季からカージナルスの打撃コーチに就任するマーク・マグワイアについて、1月21日にAP通信の取材を受けて厳しいコメントを出したことが話題になりそうです。
その理由はもちろん、マグワイアが現役時代にアナボリックステロイドを使用していたことで、その内容は球界復帰だけでなく、彼が残した通算583本塁打という記録にも疑問の目を向けるという厳しいものとなっています。
ジェンキンスは「マグワイアは、自分が本塁打を放った投手全てに謝罪すべきだ。彼に打たれて消えていった投手がどれほどいると思っているのか」と語り、1998年にマークした当時のメジャー記録であるシーズン70本塁打についても「自分が投げていた時代には、トム・シーバー、ボブ・ギブソン、ドン・ドライスデール、スティーブ・カールトンといったいい投手がいた。彼らなら、あんなに打たせることはなかった」と球団拡張でマイナークラスの投手がメジャーで登板する機会が多くなり、打高投低だといわれたあの時代を反映しただけのことと切り捨てたんですね。
ジェンキンスは1967年から1972年にかけて6シーズン連続20勝というメジャータイ記録を持つ一方、カブス、レンジャース、レッドソックスで投げていた為に一度もポストシーズンを経験したことがないという華やかさと地味さを併せ持った投手でした(レッドソックスに移籍したのは1976年で、前年アリーグチャンプだったこのチームはこの年地区3位に終わっています。ツキがなかったんですねぇ・・・)。1983年を最後に現役を引退し、1989年に初めて殿堂入り候補へ名を連ねますが、結局切符を手に入れたのは3回目の投票となった1991年のことで、このあたりの「一発でOK出すには、ちょっとなぁ・・・」という空気が、彼の現役時代を如実に表していたようにも思います。
気になるのは、そんなジェンキンスが何故マグワイアの批判を?という点ですが、その詳細な背景は不明なものの彼だからこそ言わせる価値があると思わせる過去はあるんですね。というのもレンジャースに在籍していた1980年に、ジェンキンスはコカインの不法所持で逮捕されたことがある為で、まだメジャーに禁止薬物の「き」の字もなかったあの時代にあって、彼は珍しく薬物服用を理由とした出場停止処分を受けています。ジェンキンスの場合は後に不起訴となったことから処分も取り消されていますが、オールドファンの中にはファーガソン・ジェンキンスの名前を見てコカイン騒動を思い出す人もいるはずで、彼らにとってマグワイアとの取り合わせは面白いものに映ったことでしょう。
しかし、マグワイアの嫌われぶりは目を覆うばかりとなってしまいました。今年で3回目となった野球殿堂入り投票でも得票率が30%を超えず、FOXが行った「マグワイアの本塁打記録をどう扱うか?」というネットアンケートに寄せられた声も「記録から削除」が最も多いという現状は、マグワイアの復権が難しいことを物語っています。
ジェンキンスが取り上げた1998年、マグワイアはヒーローでありスーパーマンでした。サミー・ソーサとのデッドヒートが展開される中でロジャー・マリスの記録を抜き、前人未到の70本の大台にまで達した時、全米はまさにマグワイア一色で染まったわけですからね。62号本塁打の記念ボールには後に高い値段がつくと予想したアメリカの国税局が、マグワイア本人へボールを返しても取得者には贈与税を課すと発表すれば、上院下院を問わずこれに反発する議員の声が多発して「売却した時は」と声明を訂正する騒ぎにもなったり・・・。ファンではない人もマグワイアの本塁打を待ち焦がれていたあの年に「結局マグワイアは2001年まで現役を続けて通算で500本以上本塁打を打ちますが、その記録が削除されることになるかもしれません」などということを言おうものなら、何をとち狂ったことを!と誰もが怒り、呆れたことでしょう。
しかし、現実は厳しいものでした。
薬物の使用についてMLB機構が対策に乗り出した当初、マグワイアは「(サプリメント商品である)アンドロステンジオンは薬局で普通に買えるクスリ、これを飲んで何が悪いんだ?」とコメントを出しますが、IOCに準拠する形でメジャーの脱クスリ化が一気に進む中で、マグワイアの足元も見る見るうちに緩み、崩れていくことになります。決定的だったのは2004年に行われた薬物使用疑惑に関する証人喚問の場で、マグワイアは自分の過去に関する証言を黙秘する選択をしたことでした。まだ規制のなかった時代の話で、この時に薬物、特にアナボリックステロイドの使用を認めていれば世論が好意的に見てくれる余地はあったものの、逃げたことでマグワイアが暗に認めたと批判が高まり、結局そのダメージから抜けられないまま今に至ってしまったんですよね。
マグワイアはカージナルスの打撃コーチ就任に合わせ、アナボリックステロイドを1989年から使用したこと、そしてそれが愚かな過ちだったことをコメントしています。どうしても殿堂入りしたい、シーズン中もこの話題で追い掛け回されるのはゴメンだ、その背景には様々な感情が渦巻いていることは想像に難くないわけですが、やはり遅きに失した感は否めません。
マグワイアはマイク・シュミットやレジー・ジャクソンを数字の上では超えた選手です。しかしシュミット、ジャクソンと肩を並べる存在なのかと言えば、素直にYesとは言えないように思います。もちろん怪我があり、ストライキでシーズンが短縮された1994年を現役で過ごしたハンディはありますが、史上最高の三塁手と称されるシュミット、1977年のワールドシリーズで3打席連続本塁打をマークしたジャクソンに記憶の部分で大きく引けをとるように思えてならないんですね、どちらもただの一度でさえシーズン50本塁打がなかったにも関わらず。その理由を考えてみれば、そこには怪我から早期に回復したい、筋トレの効果を早く強く形にしたい、そんな思いをクスリで解決したこと、そして証人喚問を含めて薬物使用を認めるまでの間にとった逃げの姿勢、そうした一連の立ち回りが、マグワイアの放っていた輝きを曇らせているからだと言えるでしょう。更に言えば、薬は表面的なもので、単純に尊敬や畏敬の念を抱けない、ゆえに殿堂入りの票を投じる手も鈍るし批判の声も大きくなる、そんな状況が今なのかもしれません。
マグワイアが殿堂入りを目指すなら、今のままでは厳しいと言わざるを得ません。下手をすれば、薬物解禁の動きが出ない限り復権はないなんてことにもなりかねません。だから逆に、マグワイアには再びユニフォームを着ることになる今季をスタートにして、指導者として殿堂入りを目指す道を選択して欲しいと思っているのですが・・・、どうでしょうかね?少なくとも、薬をいくら飲もうが、選手に勧めない限り問題ないわけですし(苦笑)。


